一輝が小学1年生の時に、一寸大変な事件が2度あった。
最初は、まだ雪が山に残る頃だ。
当時は、雪も相当ふり一寸したスキーが出来る程だった。
だから、雪で家から道路に出られなくて、学校を休む事もあった。
そんな時期に、弟子達と道場の横の20m程の崖を降りている時だ。
私が真っ先に降りながら、降りられそうな経路を確保していた。
続いて弟子や一輝が降りてくる。
私が大分下まで降りていると上から「危ない!」と声がした。
何と、一輝が頭から落ちて来ていたのだ。
私は思わず身体をうつ伏せから仰向けに反転させ、一輝を受け取り片手で抱き抱え、もう片方の手で、それこそ手当たり次第にその辺りを掴んだ。
いや、掴めるものを掴んでブレーキを掛けた。
てはズルズルだ。
一輝の落ちてくる勢いで、私共々落ちていっているからだ。
瞬間下を覗くと、大きな岩が見えた。
もしそこに突っ込んだら一たまりもない。
良くて親子で骨折だ。
必死で草や木を掴み土を擦り、奇跡的にその岩の手前で止まった。
崖の上から安堵の声が聞こえた。
間髪を容れず私は崖の上に向かって「笑え!!」と怒鳴った。
一輝にも笑って見せた。
一輝は泣きながらも、こちらに釣られて笑顔になった。
もう一つの事件は、息子の書いた、無免許崖から転落事件だ。
「笑う」という大事さは、恐怖心やいわゆるトラウマにならないようにする配慮だ。
ここの意識の切り替えが大変大事な事なのだ。
言って聞かせるのではなく、本当にそうする。
それが直球で届くのだ。